宮城県石巻市で、抗がん剤治療を専門にしている大堀ヒサツグさん。
日本では非常にマイナーな腫瘍内科医として、がん患者さんと向き合う中で、
心理学とコミュニケーションを学んで得た気づきをコラムにまとめてくだいました。
これから6回に渡ってご紹介します。
第1回はーがんと「アドラー心理学」ー。
病気になったら誰もが考えてしまうのが病気になった「原因」。
患者さんとの会話で目的論で対応することでどのような変化が起こるでしょう?
僕がアドラー心理学をベースにしたコーチングを勉強して最も感銘を受けた考え方が「目的論」でした。それまでの自分の考え方の中心が「原因論」であったため、ある種の問題解決が難しかったのだとわかったのです。
つまり、腫瘍内科でいえば、患者さんからのある種の質問にどうお答えいたらいいのか?
これまで難しいと感じていた質問に対しては、「目的論」で考えればスムーズに解答にたどり着けてしまうということが判明したということです。
ある種の質問と書きましたが、こと「がん」に関しては、原因論では解決できないというか、結論が出ないことが非常にたくさんあると思っています。
例えば
「私は何が原因でがんになってしまったのでしょうか?」
という質問です。
親もがんだったから、遺伝かもしれない?
タバコのせい?でも、5年前に禁煙したんだけどなぁ~
お酒飲みすぎたから?
などなど。
どれも、そうかもしれないし、関係ないかもしれません。
遺伝の可能性が高そうだとして、親に恨み言を言おうものなら、親御さんは一生自分のせいだと悔やんで生きていくことになりかねませんので、僕の意見としては、たとえ遺伝の可能性が高そうでも、生んでくれた親を恨むというのは、違う気がします。
また、タバコをたくさん吸っていても、がんにならない方もいらっしゃいます(肺は悪くなるでしょうけど)。
たとえ、タバコを吸ったせいで「がん」になったとして、タバコをやめても「がん」は良くなりません。
これがアルコール性肝炎であれば、お酒をやめればある程度元通りになるのでしょうし、塩分の取り過ぎで血圧が上がったのであれば、塩分制限して血圧を下げることが可能ですが、「がん」はそうはいきません。
つまり、「私は何が原因でがんになってしまったのでしょうか?」という質問に対する答えそのものがないことが多いことと、たとえ答えがわかったとしても治療には結びつかないことになりますので、この質問を「原因論」で考えてもあまり意味がありません。
では、この質問を「目的論」で考えるとどうなるでしょうか?
私は何が原因でがんになってしまったのでしょうか?
何が原因でがんになったかはわかりませんが、あなたはこのがんをどうしたいですか?
がんを治したいです!
では、手術を受けるのが最善の方法だと思います。
とてもシンプルに解答にたどり着きました!
この問答は特に原因論だ、目的論だと意識せずに、普通に診察室で行われている会話かもしれません。
では、このような場合はいかがでしょうか?
胃がんで手術を受けてステージⅡだったので、再発予防に抗がん剤治療を勧められたが、体調も悪かったし、年齢も年齢だからと断ったのだが、いつか再発するのではないかと心配。
やっぱりあの時頑張って抗がん剤治療を受けておけばよかったのだろうか?
こんな質問を診察に来るたびに相談されていく方がいました。
「原因論」でこの質問に答えると、次のようになると思います。
抗がん剤をしていた場合、しなかった時と比較して10%程度再発率を下げる効果があります。
ですので、抗がん剤をしていても再発する可能性はありますし、やらなかったからといって再発するわけではありません。
注意深く経過を見ていきましょう。
このように言われていかがでしょうか?
もし次の検査で残念ながらがんが「再発」してしまったとしたら、この方の後悔はより強くなってしまうのは間違いないでしょう!
つまり、ほぼ何の解決にもなっていなかったから、毎回診察に来るたびに同じ質問を繰り返されていたのだと、今になって気がつきました。
「目的論」ではどうでしょう?
あなたが抗がん剤治療を選択しなかったのはなぜですか?
体調が悪く、抗がん剤を受けるとより悪くなるのではないかと心配だったからです。
では、抗がん剤を受けなくてよかったことは何ですか?
ほぼ手術前と同じ体調に戻りました。ご飯も食べられるし、仕事も再開しています。
もし、抗がん剤をしていたらどうだったでしょうか?
まだ体調が悪くて、仕事も行けてなかったと思います。
その状態で、万が一がんが再発してしまったとしたらどうでしょうか?
再発してしまっても、抗がん剤治療を受けるのは難しいと思います。
抗がん剤をしなかった今の状態であれば、どうでしょうか?
もし再発してしまった場合でも、抗がん剤治療を頑張れると思います。
抗がん剤を受けていても再発することもあり、受けなくても再発しない人もいます。
抗がん剤をうけたおかげで、結果が変わる人は10%で、90%の人は受けても受けなくても結果は変わりません。
当時はとても抗がん剤治療に耐えられる体調ではなかったし、無理して受けても途中で断念していたかもしれません。最後まで続けられたとしても、体調が悪い状態がつづき、仕事もやめていたでしょう。
そうすると何のために抗がん剤治療をがんばったのかわからなくなっていたかもしれません。
再発したら困るけど、やらないという選択はあっていたんだって気がつきました。
まあ、こんなにうまくいくかはわかりませんが、「原因論」よりは「目的論」のほうが、本人の納得する答えにたどり着ける可能性が高いと思います。
いままでは「目的論」という考え方を知らなかったので、「目的論」的に説明していたこともあったかと思いますが、ほとんど「原因論」で対応していたため、質問に答えているようで、あまりよい回答になっていなかったんだと思います。
がん患者さんの悩みの多くは、「原因論」で答えることが難しいです。
そのようなときは「目的論」で考えるとうまくいきそうだということに気がついてから、患者さんの質問に答えることが楽しくなってきました。
大堀ヒサツグ抗がん剤治療研究所
抗がん剤治療を専門にしている腫瘍内科医です。短い診察時間では伝えきれない、抗がん剤とうまく付き合っていく方法を発信していきます。
このコラムが掲載されている大堀ヒサツグ抗がん剤治療研究所のnoteはこちらからご覧いただけます。
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