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がんと「アドラー心理学」ー勇気づけ

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宮城県石巻市で、抗がん剤治療を専門にしている大堀ヒサツグさん。
日本では非常にマイナーな腫瘍内科医として、がん患者さんと向き合う中で、
心理学とコミュニケーションを学んで得た気づきをコラムにまとめてくだいました。

第2回はーがんと「勇気づけ」ー。
抗がん剤治療の前に必要なことは「勇気を回復させること」と言う大堀医師。
「良かれと思って…の罠」
「勇気づける気遣い」と「勇気をくじく気遣い」の違い、
など、繊細な気づきと実践のヒントが溢れています。

勇気づけと勇気くじき

僕は腫瘍内科医としての日々の診療に役立つようにと、
「アドラー心理学をベースとしたコーチング」を学んでいます(勉強中です)。

たくさんの学びがあり、いずれの学びも診療に応用ができることばかりなのですが、
その中でも特にがん患者さんを診療するにあたって役立つことは「勇気づけ」だと思っています。

「勇気」とは、困難を切り開いていく力。
本来はどんな方でも持っているものです。
でも、一度がんにかかると、

「診断の結果、がんでした」
「手術で治せることもありますが、再発するリスクもあります」
「残念ながら、がんが再発してしまったようです」
「進行したがんは、治療で治すことが難しく、進行を遅らせることが目標になります」

など、病院に行くたびに聞きたくない話を聞くことになり、
「勇気」が減っていく体験が増えてしまいます。

このような「勇気」を減らす言葉や行為を「勇気くじき」、
逆に「勇気」が増えるように関わることを「勇気づけ」と言います。

「アドラー心理学をベースとしたコーチング」を学んだことで、

進行がんで抗がん剤治療しかないと言われて腫瘍内科を受診される患者さんは、
「勇気」がくじかれ、スッカラカンになってしまっている方が多い、

ということをはっきりと認識できるようになりました。
そして、

勇気がスッカラカンの状態で、
「がん」という人生最大の困難を切り開いていくことができるはずないよね

という風にも考えられるようになりました。

そして、腫瘍内科に紹介されてきた患者さんにまず必要なことは、
「抗がん剤治療」をすることではなく、少しでも「勇気を回復させる」ことだ言う気づきを得ました。

勇気を回復させるために

では、どうにすれば勇気を回復させ、勇気づけることができるのでしょう?
実は、そんなに難しいことではありません。

・笑顔で接する
・元気な挨拶「おはよう!」
・感謝の言葉「○○してくれてありがとう!」

その人にとってしてあげたら喜びそうなことなら何でもOK!

「えっ!そんなことでいいの?」と思われたかもしれませんね。
ほとんどの方は日常的にやっている、やれていることだと思います。
とはいえ、がんの方を目の前にして、これらを自然に実践できる人となると…?

例えば「笑顔で接する」

がん患者さんが、笑顔が素敵な人を前にして、
この人になら受け入れてもらえるかも、と考えて

「実はおれ、がんになってしまったようなんだ」

と告白したらどうでしょう?

多くの方が、先ほどまでの笑顔は消えて、悲しく哀れむような表情になってしまうのではないでしょうか?
そうなると「素敵な笑顔」は勇気づけではなく、勇気をくじく記憶に繋がってしまうかもしれません。

家族ならなおのこと。
家族である患者さんに向かって元気なあいさつはできていますか?
自分が落ち込んでしまった時も、笑顔でいられるでしょうか?
「ありがとう」という機会も減っていませんか?

「そんなことしなくて良いから、休んでて。私がやっておくから!」
と、健康な時にはやってもらっていた「ゴミ出し」など、自分でやっているとしたら…。
むしろ「ありがとう」を伝える機会を意図的に減らしてしまっているかもしれませんね。

もちろんすべては相手を気遣っての言葉、行為です。
でも、もし、自分が「がん」で、そんな風に言われたら…?
と想像してみてください。

勇気、増えていますか?減っていませんか?

もしも、その「気遣い」が「勇気くじき」になってしまっているのであれば、
少なくともその「気遣い」をやめさえすればプラスマイナスゼロにはできます。

そして、できるなら「勇気づけ」の言葉・行為に変えていければより良いと思います。

自分が相手に対してしていることが、「勇気づけ」なのか「勇気くじき」なのかを判断するのは簡単です。
「その状況で、自分が言われたら、やられたらどうだろう?」
って、言う前・する前に相手の立場に立って少しだけ考えるだけでよいのです。

相手がどう捉えるだろうか?
と想像することはそんなに難しいことではありません。

とはいえ、そこには誰もがつい陥りがちな「罠」があります。

良かれと思って…の罠

それは、自分がよいと思っていることを、相手にも勧めることです。
一方的な想像は、相手の勇気をくじいてしまうことになりかねません。

自分が良いと思っているから、相手も喜んでくれると思い込んでしまうという「罠」で一番良くあるのが、
健康食品(サプリメント)を勧めることです。

特にがん経験者の方であれば、自分のがん治療の時に使って良かったものは、人にも勧めたくなると思います。
そして、よく知っている人から勧められれば、使ってみようと思う人も少なくないでしょう。

とはいえ、がんといってもその状態は千差万別。
ある方には良かったものでも、別の方には効果がなかったり、逆に悪い作用が出てしまったりすることもあります。

また、ただでさえ、がん治療にはお金がかかります。
その上、健康食品まで、となるとどうでしょうか?

このような可能性について想像することは少し難しいかもしれませんので、
自分が良いと思っている健康食品を誰かに勧める前には、
こんな風にイメージしてみるのも良いかもしれません。

①見たことも聞いたこともない商品を、
熱心にこれが良い、あれが良い、
絶対使った方が良いと勧められ、
値段を聞いたら結構高かった。

②絶対に値上がりする株があるから、ぜひ買って!
ホントは教えたくないけど、あなただから教えるね。

こんな時、あなたは、買いますか?買いませんか?
そもそも話を聞きますか?

勧めている本人は、詐欺でもセールストークでもなく、本当に良いと思っていたとしても、
もし、自分が勧められる側に立った時に、どのように感じるか?を想像してみてください。

本当の気遣いとは…

もちろん、最終的には相手に言ってみて・やってみてからでないと、
「勇気づけ」になるのか「勇気くじき」になってしまうのか、わからないこともあると思います。

そういうときは、随時、相手の反応を見て、

「勇気づけ」になっていそうであれば続けてみる、
「勇気くじき」になっていそうなら深追いしない

という観察に基づく評価をしながら対応する気遣いが大切だと思います。

今回、「勇気づけ」を学んだ僕は、
勇気をくじかれてスッカラカンになってしまっている患者さんが腫瘍内科に紹介されてきた時、
少しでも「がん治療頑張ってみようかな」という勇気が湧いてきてくれることを願って、

まずは「こんにちは!」と元気な挨拶と笑顔でお迎えし、
これ以上勇気をくじかないように注意を払いながらお話しし、
「お話を聴いてくださりありがとうございました」と感謝を述べて終了する。

まだまだ未熟ですので、これくらいしかできていませんが、
初回の面談をこんな風にすることから始めています。

大堀ヒサツグ抗がん剤治療研究所
抗がん剤治療を専門にしている腫瘍内科医です。短い診察時間では伝えきれない、抗がん剤とうまく付き合っていく方法を発信していきます。
このコラムが掲載されている大堀ヒサツグ抗がん剤治療研究所のnoteはこちらからご覧いただけます。

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