元小学校の先生で、現在は子供達と関わる先生に向けた塾「未来学園HOPE」を運営されている梶谷希美さんへのインタビューをもとに、アドラー心理学の考え方を活かした、子育てのヒントをお伝えしていくコラム。
【第一弾】ケースごとにみる対処法シリーズのVol.3では、子供が時間を守れるようになるための関わり方をご紹介します。
プライベートでは歌うことが趣味。
「ほら、もう行く時間よ!」
「あ!大変だ!遅刻遅刻!行ってきまーす!」
・・・学校に行く日の朝も、塾に行く前も、お友達と遊ぶ日ですら、いつもギリギリになって準備をして行く我が子。
そんな時は決まって、忘れ物をしたり・・・。って、え?
ガチャ!「忘れ物したー!!」バタバタ・・・・
「わぁー!間に合わないー!行ってきます!」バタン!
・・・・ほらね。やっぱり忘れ物。
もう、毎日こんなに急いで、忘れ物して、何度言っても聞く耳も持たないし、変わらない。
ほんと、この先大丈夫かしら・・・・。
なんて、思っていませんか?
この例で言うと、お母さんは「仕事に行く」という前提で、「7時半までにご飯を食べさせて、着替えさせて・・・」と頭の中で目的地に辿り着くまでの時間を逆算して行動を計画しています。
そうです。お子さん自身、“毎日、当たり前にそこ(保育園や学校など)に行くものだ”ということは理解しているものの、いつも「次はこれ持って、あれやって」とお母さんから降ってくるものに対して反応しているだけなので、自分で「間に合うように行こう」ということまでは、意識していないことが多いのです。
では、どうしたらよいのでしょうか?
Vol.1のコラムでもお伝えしましたが、お子さん本人が、その場所に行きたいと思っているのか、間に合いたいと思っているのかは大事なポイントです。
それを踏まえたうえで、時間に間に合うために最も重要なこと。
それは、「シュミレーションができているかどうか」です。
ここでいうシュミレーションとは、
①出かけるまでの流れがシュミレーションできていること
②遅れてしまった先に起こることがシュミレーションできていること
が挙げられます。
子どもに自分で考えてもらうためのアプローチをしながら、実際に間に合わない、ということを体感してもらうのも1つの手です。
私が受け持ったクラスの例で言うと、版画の時間に子供達に問いかけながら、実際に片づける時間を決めてもらいました。
「何分にチャイムが鳴りますか」
「〇分です」
「その時間までに片づけて次の音楽の授業に出発できますか」
「できます」
「では何分に片づけ始めたらいいですか?」
「5分前です」
ですが、版画の時間の片づけが物理的に5分では終わらないことを、私は知っていました。
でも子どもたちが決めたことなので、何も言いません。
「わかりました。では、5分前になったら声をかけてね。」とだけ言います。
そして5分前、声がかかり一斉に片づけはじめます。
が、いざ片づけ始めると、思ったよりも片づけの量が多く、チャイムが鳴っても片付かないということに子どもたちが気づき、焦ります。
そうなったときに、こんな声かけをするのです。
「間に合わないと気づいたら、間に合わないのだけど、あと5分時間を延ばしてもいいですか、とその時点で言いに来てくれればいい。その次のことは一緒に考えればいいんだよ。」と。
そして更に言うと、間に合わなかったことで次の音楽の先生にも迷惑をかけてしまうという事実も伝え、それに対してはどうすればいよいのか?ということまで一緒に考えます。
このときは生徒たちが謝りたいと言ったので、「次は間に合うように頑張りますのでよろしくお願いします」と一緒に謝りに行きました。
そういうやり取りを繰り返して、自分たちの感覚を掴んでもらうのです。
上記の例でいうと、
この2つのシュミレーションが重要になってきます。
例えば、先生は過去の経験などから間に合うかどうか、また間に合わなければ次の先生に迷惑がかかる、ということもわかっているので、”5分で終わらなければならない”という認識を持っています。(プライベートロジック※1)
一方で、子どもたちは「片づけて次の授業の準備をする」ということはわかっていても、それが5分で終わらない、その先はどうなるのかはまだ理解できていません。
このその先の結末のことを、論理的結末といいます。
先生の指示のもと動くだけだと、子供達は「指示されたからやる」というだけで、その後も指示を待ち、なんとなくその通りにやるだけになります。
実際に自分たちで考えた時間で実践してみたけれど、間に合わなかった。
間に合わなかった結果、周囲の関わる人にどのような影響があったかという、論理的結末までを知ることによって、子供達のなかでようやく「5分で終わらないから、10分前に片づけを始めれば間に合う」という認識が理解できるようになるのでます。(コモンセンス※2)
親としては、可愛い子になるべく失敗させたくない、と思いがちですが、子供の意思や考え方を尊重すること、「失敗しても、この子なら大丈夫」という信頼を持って接することによって、子どもが自ら動けるように変わっていくようになるものです。
<用語解説>
※1 プライベートロジック:個人のものの見方・考え方のこと
※2 コモンセンス:多くの人が属している共同体において、共有できているものの見方・考え方のこと
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